「プチイ様になっていただけませんでしょうか」
エヌ氏が、お腹をすかせて街を歩いていると、突然、見知らぬ男から声をかけられた。二三歩歩いた後に、振り返ったエヌ氏に、男はこう続けた。
「プチイ様になっていただければ、しばらくは衣食住は私どもが用意させていただきます。何かご入用なものがあれば、できる限り手に入れるように致しますし・・・。何はともあれ、ちょっとそこで詳しい話を・・・」
男が話すには、プチイ様とは、男の属する会が崇める対象なのだが、その会の会員はなることができないため、なってくれる人間を探しているらしい。先代のプチイ様がいなくなったので、その代わりを、とのことだそうだ。
「食事は毎日三食、腹いっぱい、もらえるのだろうな」
近頃まともに職にありつけていないエヌ氏が聞くと
「もちろんでございます。三食といわず、四食でも五食でも。一緒に来ていただいて、プチイ様になっていただければ」
エヌ氏はお腹をすかせていた。男が、見慣れないペンダントをかけていたことにも、男の方がさらにお腹をすかせているようだったことにも気をとめず、見知らぬ人間について行ってしまうほど、お腹をすかせていた。
車に揺られ、外に見える風景から、ビルが減ってゆき、一つも見えなくなって、目的地に着いた。男は、エヌ氏に宿を用意し、言ったとおり、たくさん食事を与えた。エヌ氏は、食事を食べている間、周りにいる他の会員が、よだれをぬぐっているのを見て、これがプチイ様の凄さかと、いい気分になり、お腹いっぱい食べた。こんな日が幾日か続いた。
毎日食事をたくさんとって、ちょっと太ったかと気にしたエヌ氏が、ダイエット器具を注文したあくる日、男たちがプチイ様のお祭りだと言い始めた。エヌ氏が、自分は何かすることがあるのかと聞くと、男は
「プチイ様は何もしなくていいんですよ」
と微笑みながら答えた。
準備が終わったからと、呼ばれて祭りの会場に、エヌ氏が呼ばれていくと、大きな鍋がおいてあり、それを囲む人々が、目を輝かせて、エヌ氏を見ている。エヌ氏が、とんでもないご馳走が食べられるのだろうとわくわくし、人々の前に進み出た。すると、いきなり何人かの男に、押さえ込まれてしまった。何が起こったのかと、エヌ氏が混乱しているのにも構わず、男達はエヌ氏を持ち上げ、鍋の中に。
闇が語った物語シリーズ、第二弾です。オリジナルは2002年12月7日午前1時29分の作となっており、ファイルスタンプは2時2分となっていました。
語られた直後に(語られるのと平行して?)オリジナルのテキストを書いたのですが、おもしろいかおもしろくないかなんとも判断がつかなかったので、とりあえず当分寝かせておくことにしたのです。
そうやって、半年以上たち今見直してみて、わたしの中での最低基準は満たしたので、公開することにします。
客観的に見て、短いくせに伏線だけは一人前にありますねぇ。たとえば、
オリジナルからこの改訂版までに何ヶ所か変更しましたが、基本的にオリジナルの形を残しています。ってか、自分の作品であってないようなものなので、変えられないところもありますし。「二三歩歩いた後に、振り返った」で、なぜ「二三歩歩いた後」なのかはわたしにもわかりません。
以下はオリジナルに書いてあった解説。
あれです、語り掛けられました。
「プチイ様」ってなんでしょうかね?
本来ならばもっとこの話にあった言葉を持ってくるところなのでしょうが、
この言葉で語られたので、そのままにしてあります。
話の流れはどことなく、星新一さんの「ブルギさん」を思い起こさせますね。
これも真似たわけでなく、たまたま似た話を語られたのでそのままです。
細かいところまでは語っていただけなかったので、
ショートショート風味にしたてたつもり、のようにおもわれます。
まぁ不思議なこともあるものですね。
2003年08月18日午後10時、改定第一版
Copyright (c) 2002-2003 NARUSE,Yui ([[Airemix|URL:http://www.airemix.com/]]). No rights reserved.